自主企画まで、あと1週間。
渋谷CYCLONEでのライヴを経て、頭と手足は主催者のマインドに切り替わっていた。
特製チケットの印刷・裁断・ミシン目入れ・ナンバリング。
住所を印刷して梱包&発送。
5日もあれば問題なく送り届けられるであろう。
次は特典音源。
盟友を事務所にお招きし、酔いどれで録音。
なんの悪戯か、収録中にオーディオスピーカーの端子が破損。
片方のスピーカーが不調を訴える事態となってしまった。
ジェームズヘッドフィールドの力を借りてなんとか収録は完了。
CD-Rを焼く単調作業に並行してジャケットの印刷。
最終的な入場人数はギリギリまで読めないため、最難関の盤面印刷は前日の行程となる。
2年前、盤面印刷を立て続けに失敗を記録し、急遽サインを入れる代替え案となった。
あの日、かの親友は夜遅くにも関わらず事務所まで来て、黙々とサインを書いていってくれた。
ん?????????
このイケメンは誰??
頼まずとも手伝ってくれるのが、横井翔二郎の横井翔二郎たる所以。
はぁ好き。
盤面印刷も無事に乗り越え、迎えるは明日、企画当日。
12月27日、午前9時。
響き渡る凄まじい騒音がアラームの代わりとなった。
なんの因果か、下の階のリフォーム工事が始まったのである。
パソコンを開けば問い合わせメールが複数件届いている。
どうやらチケットが到着していないとのこと。
(この時期、全国的に配送遅延が発生していたそうです。)
入場手続きのご案内を出してひと段落。
今思い返せば、不意な早起きは怪我の功名だったのかもしれない。
しかし轟音鳴り響く家に居られるわけもなく、昼過ぎに荷物を持って渋谷へ。
通常の機材に加えてレコードもあると結構な物量である。
記念すべき日には、寿司がつきもの。
メニューのどのページをめくっても推され続けていた春巻き寿司でパワーアップ。
ちゃんと揚げたてで美味かったんだよな…。
16時前に会場入り。
企画当日の、この感覚が久し振りだ。
まずは #STDRUMS のサウンドチェックを進める。
すると河内さんから連絡があり、雪の影響で新幹線の到着が遅れるとのこと。
THE BEE 大阪公演の大千穐楽を迎えた翌日、そのまま会場入りする男。
一旦こちらで出来る準備を進行しながら、到着を待つ。
RICH FOREVER の全てを知る男はDJ機材を初めて触って楽しげなご様子。
今日は2人でレコードを持ち寄って共有。
Bi-syu のサウンドチェックが始められたのは開場時間の30分前ほど。
5分前に俳優たちは着替えを終えて、なんとかオープン。
全てはギリギリに、溝の淵から溢れないラインで進行している。
遡れば2019年12月に開催された RICH FOREVER SEMINAR vol.7。
俳優の河内大和・横井翔二郎を招き、即興朗読とドラムソロによる『対バンイベント』を企画。
彼ら2人は『バンド名 “Bi-syu”』を名乗り、新機軸の交わり合いは渋谷の夜を大きく盛り上げた。
20191219 #STDRUMS + Bi-syu (河内大和×横井翔二郎) 〜RICH FOREVER SEMINAR vol.7〜 渋谷RUBY ROOM
「またやろう。」
3人の口から出た言葉は虚しく、世情は人を集めることに懐疑的。
時は流れ2021年、秋口。
渋谷RUBY ROOM から通常営業の報を受けた。
思い付くアイデアの中で、あの日撮った3人の写真が頭を過ぎった。
すぐさま2人へ連絡。
かたや仕事の合間・かたや大阪での大千穐楽を終えた翌日の、12月27日。
偶然か必然か全ての予定が1本に繋がり、今日の再演が決定した。
“RICH FOREVER TRADITION 2021”
18:30の開場直後、1面1曲の長い曲を再生しておき一旦控え室へ。
部屋の片付けを一気に終わらせたときのような、透明な残留物を処理する。
気持ちを切り替えDJブースへ登ると、そのには懐かしくも見慣れた景色があった。
昨今では想像できない平日月曜日の光景は痛快にて爽快。
入場手続きが押していたため、急遽マクベスの序盤を朗読すると河内さんのご提案。
実はその箇所を #STDRUMS のライヴ中に飛び入りして演じて欲しいと発案していた。
リハーサルが間に合わず流れていたものが、まさかここで活きるとは。
というか、河内さん、本持ってなくないすか…?
この男、既に台詞が頭に入っている。
そんなボーナスタイムを経て Bi-syu のパフォーマンスがスタート。
もうね、やってもらえるだけで嬉しい。
2年前はサウンドチェック中に「音付けてくれない?」と急遽ご依頼いただいたワタクシ。
即興で音を付けていく遊びを、今回はipodに加えてアナログレコードも使います。
今回も星新一さんのショートショートを用いての即興朗読。
“愛の鍵” は前回からの再演で、翔二郎からのリクエストだったそう。
おいおい一発目からEPIC極まりないじゃねぇか。
続く “声” は実際に音楽を聴こうとする描写が何度か出てくるお話。
それが実は音楽じゃなくて声だったという、即興BGMにフェイントが加わる新境地。
“さまよう犬” では「裸で菜の花畑を駆けるような雰囲気」というオーダー。
こういうとき、自分が好む音楽の全体的な方向性が似ていることに気付かされる。
色々選んでみるも、どうしてもディープな質感を孕んでしまうようだ。
特に短いお話だったため、もう一度!と「ブライトな感じ」で再挑戦。
やはり深みが出てしまうため、次々に曲を変えまくり、結果BGMが物語を引っ張る形に。
こういった発見があるのも即興ならではです。
最後 “午後の恐竜” はやや長いストーリーで、宇宙と海底を行ったり来たり。
自然と物語との流れが合い始めてくる。
“Larks’ Tongues in Aspic part.2” のラストを水爆に模して終了。
Bi-syu 結成が面白く感じられたのは、この2人が表現に真摯であるから。
そして本当に、確実にそれぞれが進化して帰ってきている。
より具体性を持たせる挑戦が感じられたステージ。
どうせ来年はもっと凄いことになっているんだろうな。
#STDRUMS のセッティングを進行する。
選曲の知恵熱にも見舞われ、既に記憶も曖昧。
新しいライヴの導入方法を取り入れたこと。
やや指が動きにくいこと。
ペダルに不調が感じられること。
ラストの mind the gap でフードを脱ぐと、視界には満ち溢れる景色が映っていた。
#STDRUMS の主軸【RICH FOREVER SEMINAR】が打てなくなり約1年と9ヶ月。
イギリスへの道も封鎖され、私は国内でのツアーに力を入れた。
九州・北海道、海を渡れば海外だ。
東京の欲望渦巻く喧騒から離れる『バカンス兼興行』は確かに新しい可能性を生み出した。
イベントはドラムソロツーマンライヴ “RICH BUDDIES” へ転変。
開催数を月1回に増やし、企画が不作になった時期だからこそ集まれる機会を作りたかった。
時間短縮営業と命じられれば1つのドラムに両面からセッティングし転換時間を収縮。
遂にはアルコールが出せなくなり、全額会場へ募金する入場無料投げ銭ライヴへと発展。
『ストレス』としてではなく『方向転換』としてポジティヴに受け取ろうとしていた。
だが、認めるしかない。
私は気づかぬうちに苛立ちを募らせていた。
気にしないようにするため、話題には触れないようにしていた。
実は仲間内に無関係な癇癪を押し付けてしまったこともある。
見ないようにすればするほど、眼を覆い隠す掌には唾棄が付着していた。
心が孤立していた。
そんな12月に、好きな人たちとKING CRIMSON を観に行った。
DRUM SHED SPECIAL 10に参加して、沢山の友人たちと再会した。
尾形回帰+現象とのツーマンをやって、皆で朝まで飲んだ。
周囲と好きなことを共有する喜びを思い出し、今日を迎えることができた。
俺は1人じゃなかった。
今日ここに集まってくれた皆さんが教えてくれた。
俺は孤独じゃなかった。
孤立を選んでいたのは、紛れもない自分自身だった。
私は幸せな人間だ。
フロアと空気を共有できる瞬間を、こうしてまた思い出せたのだから。
あれほど純粋に演奏を楽しめたのはいつ振りだっただろう。
最後は敬愛する2人をステージに呼び込み、無茶振りに応えてくれた。
翔二郎とは前日にスタジオに入りギターとドラムで練習。
河内さんにはあくまで「朗読」という形で当日のみのリハーサル。
不調を訴えていたキックペダルは終盤外れてしまうのもなんのその。
そんな3人での奇跡は忘却の彼方にて録音されておらず、故に奇跡的なのである。
RUBY ROOMが壊れるんじゃないかってくらいの盛り上がりだった…。
(リハーサルを行ったときの我々)
RICH FOREVER SEMINAR は文化事業である。
特製プリントチケット・お土産の手刷りCD-R。
現代だからこそ『モノ』の価値を再認識したい。
手間は掛かるものの、やはり現物を持って来てくれるのは本当に嬉しい。
本イベントのイラストデザインは #ちゃんまい画伯 が担当。
突然の企画決定だったため、#STDRUMS のデザインを担当してくれる呼鳴手氏が動けず。
途方に暮れていたタイミングで、ベッド・インちゃんまいと全く別の連絡をしていた。
「企画が決まったんだけどデザイナーが動けなくて困っているんだよね。」
「描くよ!」
こうしてイメージを伝えてあれよあれよとフライヤーが完成。
スピード感とタイミングが産み落とした至高の1枚となった。
全てはギリギリに、溝の淵から溢れないラインで進行している。
この現代。
疑うことに慣れた世の中になってしまった。
2年前に非常識とされていた状況や行動は、今では真逆にまかり通っている。
与えられ続けてきた『娯楽』は、能動的に探して行く必要性が出てきた。
“RICH FOREVER TRADITION”
Bi-syu との『再演』をこう名付けたのは、毎年の開催を期待する意図がある。
風物詩として、文化として、意志として。
皆さんとまた再会できるために、自分のために。
必ずという約束ができない世の中ですが、来年も必ず開催します。
今はこうして、期待を胸に抱いていたい。
また、忘年会をやりましょう。
終演後に流してくれた PARADISE CITY が、いつまでも胸に鳴り響いているのでした。
お集まりいただいた皆さま、本当にありがとう御座いました。
渋谷RUBY ROOM
RICH GOLDEN STREET vol.4
#STDRUMS
BLONDnewHALF
佐野アツシ(BIRUSHANAH)
TSUKA (TSUKAMARO)
OPEN – 18:30
START – 19:00
入場無料 / 2drinks order
次回は3月2日に番外編【RICH GOLDEN STREET vol.4】の開催が決定。
#STDRUMS 以外全て大阪のアーティストを招致し、入場無料!
火影・戦国大統領で夜な夜な行われている平日のライヴを真空パックで渋谷にお届け。
文字通りフラりと遊びにいらして下さい。
そしてそして、2022年1月27日(木) 〜 1月31日(月)。
河内大和・横井翔二郎とは G.Garage/// 主催『リチャード三世』へドラマーとして出演。
サックス:副田整歩さんと共に、シェイクスピアの世界を彩ります。
通常の劇伴とは違い、役者の感情や情景を音楽で表現していく刺激的な内容です。
ご来場をお待ちしております。
特設サイト▶︎ https://g-garage-richard3.studio.site
企画を終えた翌日…
なんでやねん!
(このあと3日連続で会った。)
それでは、続きはwebで。チーン。