過ごしやすい気候になってきた10月。
スタジオワークを終えて家に戻ると小包がポストに投函されていた。
差出人が誰なのかは、無事に届くようにと丁寧に書かれた宛名を見ずとも瞬時にわかる。
思った以上に早く到着したものだ。
数十枚の同じCDが緩衝材で梱包された封筒に入っていた。
おおよそ9000km先にいる送り主へ連絡をしつつ、早速再生しながら晩酌の用意を始める。
鯵をまとめ買いしてきたので刺身となめろうで一杯やろうという算段。
空腹でもあるので早めに準備を整え、ソロパーティーを始めようとしていた。
だが音が耳に入ってきた瞬間。
私の手は止まり、考えるよりも先に走り書きを始めていた。
この気持ちを少しでも忘れないうちに文章化しておきたい衝動に駆られたのである。
このブログや各インタビューをご覧の方は既にご存知の情報と予測されよう。
スペイン出身ロンドン在住のギタリストJavi Pérez a.k.a. Zuritoとの出会いは2014年11月。
#stdrums として路上ライヴをしに初めての渡英。
右も左もわからぬまま様々なストリートで音を出していた。
ロンドンの中でも治安が悪いと有名なブリクストンで演奏中、ロン毛の青年に声を掛けられた。
(初めてストリートで音を出したときの1枚。)
翌日にセッションをしてから即意気投合。
演奏は勿論のこと、実際に連絡を取り合って再会できたという一連の流れも嬉しかった。
当時Javiのバンドメイトであるベーシスト、Billも合流し3人でセッションを繰り返す。
我々はトリオのジャムセッションバンドとして動いていた。
バンド名は “UNDERGROOVELAND”(以下UGL)。
地下鉄を意味する “UNDERGROUND” を掛け合わせて名付けさせてもらった。
気付けばJaviの家に泊めてもらい、同居人たちとも次々と仲良くなり…。
彼をきっかけにロンドンでのコミュニティーは一気に広がっていった。
『また必ずロンドンへ戻ってくる。』
固い約束するには充分過ぎる理由となった。
3週間の渡英を終えて日本へ帰国。
UGLはドラム/ヴォーカルの Nathan を迎え入れ活動を継続するそうだ。
元々メンバーを固定しないコレクティヴ・バンドとして考えて私にとって嬉しい報告だった。
2014年、2015年とは各2回イギリスの地へ向かい、その都度我々は再会の祝杯を挙げた。
度重なるセッションで生まれたギターフレーズを録音し、”feat.Javi Pérez” を製作。
代表作とも言える “mind the gap” も彼らの協力無しには成し遂げられなかった撮影だ。
Javi, Bill, Nathanのトリオでの活動も随分板に付いてきていたらしい2016年。
メンバーからビデオメッセージが送られてきた。
「ユージ、一緒にヨーロッパを横断するバスキングツアーをしないか?」
Javiは兼ねてから大型バンでの車上生活を計画していた。その足を使ってのツアー。
UGL と #stdrums の計4人が車中泊をするには決して充分とはいえないバン。
過酷なロードトリップになることは目に見えていた。
だが、断る理由より面白さが脳内で圧勝していた。
パブでGUINNESSを片手に喋っている時点で、ヤツは『私の弱点』をよくわかっている笑。
ヨーロッパ横断バスキング旅行記:
https://www.rerure.com/blog/diary.cgi?field=18
4000kmに及ぶ横断ツアーを経て『では次にやることは何だろうか』。
本国でのバスキングをやった。
ハコでのライヴもやった。
ヨーロッパも回った。
日本人の私がイギリスに来ている。
特に頭を働かせなければジャパンツアーが順当なアイディアだった。
UGL & #STDRUMS【RICH FOREVER JAPAN TOUR 2017】
ストリート(#stdrums)から屋内(#STDRUMS)へシフトするキッカケとなった。
現在の企画名 “RICH FOREVER SEMINAR” の源流となっているのは言うまでもない。
それはタイトルだけでなく、企画内容そのものへも直結な影響を与えている。
内容・結果共に大成功と言い切れる充実したツアーとなった。
(当ブログ “RFJtour2017” タグで当時のツアーレポートをご覧いただけます)
しかし以降、このトリオがUGLとして同じ時間を共にすることはなくなってしまった。
エンジニアへの夢や、帰郷。各々に別の道ができてしまったのだ。
集団での人間関係には足並みという鎌が常に首へ掛けられている。
もしかするとヨーロッパ・日本でのツアーにストレスがあったのかもしれない。
それからも年一度はロンドンへ向かい、近況報告と演奏を重ねていた。
Javiは1人でもバスキングを続けた。
ある意味本来の姿だ。
車上生活の話はとっくになくなり、スペインにいた彼女のTereとシェアハウスに住んでいた。
路上での出会いをきっかけに “CYKADA” へ結成メンバーとして加入。
大規模なフェスなどにも参加するバンドとなった。
Javiはよく「ユージはプロモーションマスターだ!僕は超苦手だよ」と言っていた。
この当時、SNSやブログを更新している私の姿を見て、少し皮肉も込めていたのであろう。
得手不得手ではあるが、自分で宣伝していかなければ実績に繋がらない。
しかし実力だけでCYKADAへの加入切符を手にしたのも彼であった。
共にバスキングへ行くときはベースのALと3人で演奏することが多かった。
#stdrums は新しい音源の販売や現地でのレコーディングを目的に。
JaviはUGLの看板を掲げ、日々新たなる出会いと可能性を模索している。
#STDRUMS からはLOTUS ROOT、JaviからはCYKADAのLPを交換した。
気付けば(お互い)(内面的に)大人になっていると感じたのもこの頃。
2020年。
海外に行くことが難しい世情となっているらしい。
継続6年目にして、英国の空気を吸えない年が来るとは思ってもいなかった。
ロンドン市内もロックダウンが続き、外に出るのも困難な様子。
だが、Javiはバスキングを続けていた。アホだ。
いつもの思い付きだ、Tereと一緒に新しい音源製作をしているらしい。
だが、話は次第に具体的になっていた。
それは直接聞いたわけではなく、演奏動画やレコーディング風景がアップされるようになった。
更新されていなかった彼らのSNSへ情報が急に載り始めていた。
…なんとあのJaviが、私のプロモーション方法に影響されたというのだ。
Tereの焚き付けが後ろにあったことは容易に想像ができる。
彼らは演奏力だけではなく、吸収力と発信力まで身に付けていたのであった。
JaviとTereはSEO対策としてZurito、Cucutと名乗るようになった。
あれよあれよと新しい音源が完成。
突発的なアイディアはしっかりと具現化されていた。
『日本でも売る方法はないか』と相談を受けた。
まずは送ってくれ。あとから考えよう。
…こうして今日、彼らの新しい音源が手元に届いたというわけだ。
空腹の限界が訪れたので、刺身と共に晩酌を始めよう。
耳と身体が感じている幸福も肴に…。
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というわけで起き抜け、改めて届いたアルバムを聴き直している。
“Zurito – Tamesis” はロックダウン期間中に製作されたアルバム。
スペイン出身のJavi、Tereにはお手の物であるジプシー・ラテンを基軸にしたサウンド。
ALの盤石といえるベースは楽曲の活性剤となり身体が勝手にリズムを取り始める。
目に見えない音楽を文章へ変換する作業は、想像力を使った言語化ゲームのようなもの。
昨夜は何度と繰り返し聴いただろうか。
書き残しておいたキーワードを纏めながら、抱く印象はやはり同じ。
再生が始まった瞬間から、底抜けにハッピーなのだ。
もう『ずっこけるレベル』と言ってもいい。
全ての争い事は収まり、情緒も憂愁もが手を取り合い、愛と平和で満ち溢れている。
誰にでも友好的で、一度会話が始まると半永久的に止まらない…愛しい友達たち。
そんな人となりが滲み出ている。
特筆すべきはJaviをはじめ3人が歌に挑戦していること。
当時連絡しているとき「今回は歌を入れるんだ!ニューチャレンジ!」と言っていた。
だが “2.Vonnie” で初めて聴けるJaviの語るような歌声を聴けば一目瞭然。
彼らにとってチャレンジとは『挑戦』ではないのかもしれない。
自然体で、背伸びがない。
ただ新しいことを、できた結果が収録されている。
いかに彼らが日常から音楽に触れ・奏でているかがよくわかる。
“5.Sourkraut Calypso” の歌詞も(何を言っているかはわからないが)日々の切り取りだ。
本来ウルトラテクニックと呼べるギター演奏が楽曲に溶け込んでいるのも同等。
テクニックを見せたいわけでなく、その瞬間に必要だから弾いているだけなのだ。
それは私が求めている最終的目標の1つでもある。
“1.Dragon Bombero” から様々な表情を見せつつ最後まで一気に転がっていく。
クライマックス “7.Vaya Tela” におけるメロディラインはヨーロピアンならではかつ至高。
一気に通して聴き終えたときの多幸感は、夢で見た草むらに身体を投げ出したかのよう。
安らぎとはまた少し別の、優しさに包まれた爽快感で満たされることであろう。
Tereによる両面手書きのアートワークも、本作の収録内容を見事視覚化している。
SNS発信や外側のサポートは勿論、彼女がいるからこそZuritoの音が生まれたのは言うまでもない。
ノート調の6面デジパックがキュートだ。前からJaviはデジパックに拘っていた。
そして”Zurito”のロゴは我らが西成呼鳴手。
2017年に繋がった彼の元へ声を掛けてくれたのは自分自身のことのように嬉しい。
パッケージを開けばブリクストン駅前での演奏写真が1枚。
このような演奏が、日々イギリスの路上でおこなわれている。
“Tamesis” は言わば、ロンドン・バスキングの最新型の瞬間冷凍パッケージだ。
自由で包容力のある英国のストリートが目に浮かぶ。
制限や「汚れた卑しさ」が一切ない、ただ自由な表現による全8曲。
Zurito – Tametis へ対してフラットな評価は最早不可能といえる。
6年前のあの日、ブリクストンで出会わなければ耳にしていないであろう音楽。
そして、Javiも私と出会わなければ Zurito は生まれていなかった。
ロンドンの片隅における有能なクリエイティヴィティへの影響。
音で繋がった友人たちの、愛の結晶がここにある。
こうして日本に辿り着いた、誰も知らない1枚の物語。
ひょっとしてここ日本で人気が出るんじゃないか…?という淡い期待を抱きつつ。
Apple MusicやSpotifyにもアップされているようなのでそちらでもお楽しみいただければ幸い。
たまにはこの言葉を使ってみようか…。
「一度騙されたと思って聴いてみてくれ!」
来年再び、かの地へ足を踏み入れられることを祈りながら…。
今は北西からの便りに身を委ねるとしよう。
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それでは、続きはwebで。チーン。