METAL TRASHING FIT II

by Yuji "Rerure" Kawaguchi #STDRUMS

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あなたの知らない究極の世界 – Deep Purple III をUK初版で聴く。【第四回U.K.初盤食堂】

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9月25日 (水) 第四回【U.K.初盤食堂】ありがとう御座いました。新鮮な太刀魚とマグロを仕入れての刺身&なめろう。ゲストの DJ BANBI は通例PCを介してターンテーブルでの『演奏』をしますが、今日はフルアナログでのリアルタイムDJでのセッションを実施。それゆえに私の持ち込み盤も90〜00年代のテクノ・ドラムンベースを中心に、これまた趣の違う回となりました。

そんななか、前夜にあった知人との会合の影響もあり、なぜか Ashra Temple や Klauz Shultze も紛れている今日のセレクト。テクノの原点を経て、辿り着いたのはこの1枚でした。

DEEP PURPLE “DEEP PURPLE”
1969 / SHVL 759 HARVEST
UK ORIGINAL pressing
初版推奨度 ★★★★★★★★★☆
希少度 ★★★★★★★☆☆☆
EPIC度 ★★★★★★★★★★★★

ロンドンは Camden Town が “まだ生きていた” 頃に OUT ON THE FLOOR RECORDS で発掘したこのアルバム。1969年という究極のバースプレイス・イヤーにリリースされた HARVEST、EMIロゴなし・リムが “THE GRAMOPHONE〜” 記載のUK初版プレス。全盛期の HARVEST 初版は否が応でも貴重版と認定されてしまう手強い1枚です。当時の価格でも安く無かったぶん、盤のコンディションも良好。

『時代の開拓者たちによる最期の荘厳』

1969年にリリースされた DEEP PURPLE 3枚目のアルバムは初代ボーカリスト Rod Evans が在籍した最終作。バンドは Ian Gillanを加入させ、Royal Albert Hall のオーケストラとのライヴ盤を経て “In Rock” の『ハードロック黄金期』を目前にした作品です。

Rod Evans という初代ヴォーカルがいたことすらも認知されていない可能性もあります。低い声で語るような呪術的ヴォーカルが個人的に好きで、私的 DEEP PURPLE No.1 はこのアルバムです。彼の脱退後にアメリカで結成した Capten Beyond の 1st も世界最強の1枚。

DEEP PURPLE といえば先述した “In Rock”、David Coverdale と Glenn Huges での “Burn” が有名なはず。この作品は一般的?にバンドへ想像する「シャウトでハイウェイをかっ飛ばすような爽快」さはなく、Bosch の【快楽の園】が印象的なジャケット通りのサイケデリック・プログレッシヴロックを纏った内容となっています。

こうしたサウンドの変化はオルガニスト・キーボードの Jon Lord が作曲の中心に携わっていたことが影響していたようです。Wikipedia によれば Ritchie Blackmore から「一度ハードロックを作ってみよう」という提案で生まれた “In Rock” が大ヒットしたためバンドは方針転換。のちの楽曲制作も Ritchie が中心となり、Jon Lord はソロ作でクラシカルな創作を深めていったとのこと。

「DEEP PURPLE はギターとオルガンが同列にあるバンド」とよく謳われますが、Ritchie の華々しさよりもブルージーな渋さが目立つギタープレイに Ian Paice の安定感あるドラミング。Jon Lord = プログレッシヴロック黎明期といえる68年のデビューから、クラシックとロックの融合を目指して試行錯誤をしてきた文脈での「サイケデリック DEEP PURPLE」の集大成をバンドが支えているような印象です。

A3 Lalena (Donovan のカバー) の極まれじ哀愁。”Fault Line” はテープの逆再生を用いたヒップホップの原型ともいえる実験的な楽曲。(DJ BANBI と初めてのセッションでサンプリング経験あり)。しかし、やはりこのアルバムはB面にこそ真価を発揮します。

プログレッシブロックとは山登りのようなもので、麓から始まり、ときには険しい道中を自らの足で乗り越えていく。必要な過程を踏んで辿り着いた山頂の景色は達成感も相まって格別な瞬間となります。

B面最後に収録されている “April” は、そんな過程と展開の美学が詰まったオーケストラとコーラス隊を交えての至高の三部作。イントロのハモンドオルガンは歩んできた道のりの終焉を知らせる調べ。めくるめく展開を経て Ritchie のギターと Rod Evans の語るようなヴォーカルが入ったとき、高まってきた集中力は壮大な世界観と共に解放され Epic の洪水へと呑まれていきます。EL&Pしかり、”ロックバンド” が作り上げている世界観として余りにも壮大な作曲構成能力です。

本作の評価点は音質のみにあらず、不気味なゲートフォールドを開けばまさに “DEEP PURPLE”… 深紫の世界が視覚を刺激し、セルフタイトルには威厳すらをも感じさせます。DEEP PURPLE は本作をもってして「目的を達成させた」ともいえる作品です。

グレンヒューズもトミーボーリンも最高。しかし、DEEP PURPLE 最強を選ぶならやはりRod Evans 期のこの1枚。「一度乗せたら暫くそのままの状態になる盤」というものが世の中には存在します。

百聞は一見にしかず、もとい「体験しなければわからない」のがこの時代の音楽。特にUK盤とハモンドオルガンの相性は抜群で、整えられたデジタル音源では得ることのできない、ピークを超えてバリバリとした音割れこそが「ロック」の要となるのです。

レコードは先送りや巻き戻しには基本的に適していない媒体です。「取り戻すこと」ができないため、自然と集中力が増すものです。 同じ “1曲” を聴くにも「ながら作業」で情報を耳に入れていくのと、腰を据えて真正面から捉えるのでは得られる違いは明白。

なんでも手軽に「音楽が聴けてしまう」世の中。大いに有効活用するものですが、人に知識をひけらかすためではなく、心の彩りや多様性の認知、自身の感性のために「アート」が在るべきです。

登山の例えを引用すれば、頂上にはヘリコプターを使っても到着できます。山頂からの景色は同じものですが、自らの足で稼いだプロセスこそが「同じ景色」を何倍も素晴らしく眼に映すことでしょう。(実際にヘリコプターを使った場合、それはそれで贅沢な経験となりそうですが…。) その「麓」はB面の頭であり、つまりはA面の始まりから既に「山頂」が見え隠れしているわけです。

今まで「聴いていた」曲や作品から新しい発見が次々と出てくる…レコードで音楽を体感する魅力の1つです。U.K.初盤食堂、次回もどうぞお楽しみに。


2025年1月14日 (火)
渋谷 7th Floor

#STDRUMS presents
第八回【U.K.初盤食堂】
ゲスト:笠原佑介 (Bass) 、諸石政興 (StudioMASS)

新春スペシャル!自家製カラスミ食べ尽くしパーティー & 90年代USロック・オリジナル初版ナイト!

🎫入場料:¥1000 (予約不要)
🐟カラスミ&お土産付き特別前売券:¥3500
🍷OPEN 19:00

レコードイベント【U.K.初盤食堂】現役ミュージシャンが伝える『オリジナル盤』の意味と価値。

それでは、続きはwebで。チーン。

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