METAL TRASHING FIT II

by Yuji "Rerure" Kawaguchi #STDRUMS

Daily Vinyl

元祖ハードコアパンク!MILES DAVIS – FOUR & MORE をUS初版で聴く。【第三回U.K.初盤食堂】

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8月23日(金)は第三回【U.K.初盤食堂】ご来場いただきありがとう御座いました!オールジャンルな第一回、THE DARK SIDE OF THE MOON のみ(!)の第二回を経て今回もフリースタイル。ゲストのお好みに寄せた (つもりの) セレクトとなりました。

高騰し続けるレコードですが、フュージョンなどの一部ジャンルはまだオリジナル盤でも手が出しやすい価格帯です。最初に聴いた Chick Corea もその1つ。エグいのはUK。図らずとも続く YESの1st UK ORIG. では 『プログレ至高』とうねり合う私と武田理沙。気付けばヒカルの帽子には「P」の文字が宿っている…恐るべし大英帝国。

盟友の飛び入りも経て場も暖まり、今日のメインと言える Miles Davis “FOUR & MORE” US ORIGINAL MONO 盤はゲスト蹂躙状態の破壊力でした。

MILES DAVIS "FOUR & MORE"
1966 / CL 2453
US ORIGINAL MONO pressing
初版推奨度 ★★★★★★★★☆☆
希少度 ★★★★★★☆☆☆☆
疾走度 ★★★★★★★★★★

この作品はまだレコードが高騰する前にネット通販で発見した1枚。保管が悪かったのか盤の外側が歪んでしまっていたため針圧の調整をしないと音飛びが発生しますが、結果的にタダ同然で手に入れることができたラッキー盤です。ジャケはボロいほどいい。

『あの、ナパーム・デスより速い』

“FOUR & MORE” は世界最速。速い音楽がカッコいいことは周知の事実であり、音楽は速ければ速いほどカッコいい。抗えない摂理です。この「速さ」とは、諸デスメタルバンドの BPM 240 のブラストビートより BPM 190 の SLAYER の方が速さを感じられるように、数値としてではなく「回転数」が与える疾走感を指します。

X の代表曲 “紅” を例に挙げると、ツーバス&刻みのアップテンポな曲ですが、歌に意識を寄せると案外ゆったりしています。これは「1,2,3,4,1,2,3,4…」と4/4に準じて取れるリズムを半分にして 「1,3,1,3…」といったように大きく感じることができるからです。歌の頭拍に合わせて手拍子をしてみるとわかりやすいでしょう。

“FOUR AND MORE” はハードコアパンク・グラインドコア的な暴走力を持ち合わわせながら、粒立つレガートと明確なバックビートは完全にジャズというのが容赦ない点です。

凄まじく速いテンポの上でバンド全員が 4/4 をキープしているため、痙攣手前のリズムの細かさに大きく拍を取ることが許されません。BPM 300 を150で「取らせてくれない」ドS音楽。他の追従を許さないドラマー Tony Williams はこのとき18歳。(Miles は36歳。)

Miles Davis は「ジャズ」というフィールドで実験と発明を繰り返し、最終的には総合ミュージシャン・プロデューサーのような立ち位置になりますが、この時期は George Coleman, Herbie Hancock, Ron Carter, Tony Williams という最強布陣を従え、インタープレーの応酬のなか吹きまくってくれています。

A2 – Walkin’ はスタジオ版を聴くと止まっているのではと思ってしまうくらいの驚異的走り具合でグルーヴしまくり、流暢なドラムソロのあとに各パートが難なく元のリズムに戻る。このソロは『常に4/4拍子が存在し続けるなかでリズムを遊んでいる』のか『最後のフレーズに合わせて戻っている』のかわからないほど複雑なリズムが絡み合い、この「不可解要素」もまた、ハードコアパンクと共通するものを感じます。

本作がレコーディングされた1964年 (リリースは1966年) は4トラック・レコーダーが発表された年。細かいレコーディングソースは不明ではありますが、肝心なのは本作がライヴ盤であること。最大4つのマイクで5人の演奏が収録されています。

一発録りしかなかった時代に於いて、ライヴかスタジオ録りか/マイクが何本立っているか、など気にもならないのでしょうが、各ソロパートではまるで『音がこちらに近付いてきている』かのように、他のパートが音量をコントロールして驚異的なアンサンブルを生み出しています。

MONO盤は専用の針を用いてスピーカー1つで聴くのが乙なものです。現代のイヤホンやスピーカーなど、左右2つのスピーカーで音楽を聴き慣れている我々世代は、まずMONO盤の音の立体感に驚くことでしょう。

こればかりは体験しないとわからないものですが、目の前で演奏しているような生々しい迫力がMONO盤の魅力です。ステレオ音響の普及によって1969年ごろにMONO盤は表舞台からは姿を消します。

素材も贅沢に使えた60年代中盤に製造されたMONO盤には、この時代にしかない特別な音が刻まれているのです。異次元の演奏力と塊のようなエネルギーで殴り続ける最速爆走ライヴ…。ハードコアパンクの始祖と呼べる音源作品が、1966年の時点で存在していたのです。

音楽とは目に見えないので「情報」と捉えられがちですが、他者と話しを合わせるためのツールでもなく、テスト勉強に向けての知識でもない、無形の鑑賞物・アートです。

「ジャズ」という音楽の扱われ方はときに残酷で、飲食店での BGM や、YouTube などにある「作業用BGM」など、当たり障りなく後ろにいることを求められるケースがあります。

“FOUR & MORE” はそういったレッテルをぶち破ってくれる痛快な1枚。洗練されたミュージシャンから生み出される表現 (熱量) になす術もなく圧倒され、同日に録音されたバラード作品 “MY FUNNY VALANTINE” の振り幅の広さにトドメを刺されます。

あなたの探究心と欲求がジャズに向いているのであれば、いま一度大音量で異次元の爆発力に浸ってみてはいかがでしょう。

U.K.初盤食堂ではこういった貴重なオリジナル盤を集中して深掘りできる【体験の場】です。次回もどうぞお楽しみに。

2024年9月25日 (水)
渋谷 7th Floor

#STDRUMS presents
第四回【U.K.初盤食堂】
ゲスト:DJ BANBI、Satoshi Fukunaga (Gt)、諸石政興 (StudioMASS)

🎫入場料:¥1000 (予約不要)
🐟鮮魚のなめろう付き前売り券:¥1700
▶︎ https://shop.rerure.com/product/e_20240925/
🍷OPEN 19:00

美味い肴と至高のレコード…映画を観に行くようなお楽しみの夜。

それでは、続きはwebで。チーン。

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