【平沢進+会人(EJIN) 24曼荼羅】
大阪フェスティバルホールでの2日間を終えて翌々日。
意気揚々と向かう先に想像を超えた発意が待っていた。
ステルスメジャーと場末の地下室を繋ぐ、ソロツアー初日の手記。
ホテルへ戻ってきた記憶はある。
お風呂にも入った。
だが、その後ベッドで気絶していたようだ。
全てが事切れた男の顛末である。
4月30日の朝。
昨日の過ちは繰り返さない。
朝食会場へ着席後、和定食と即答。
出てきたのは白子と牡蠣鍋、焼き鳥レバー、霜降り焼肉。
そんなわけもなく真っ当に朝ごはんらしい和食コース。
思い返せば思い返すほどモーニングバーガーとのコントラストが際立つ。
お椀を持つ右手の違和感と、この2日間に於ける充足感が比例している。
打って変わっての快晴。
平沢さん御一行と別れ、私は駅にて家族を待つ。
大阪まではるばる観に来てくれていたのだ。
お茶でもするかと思いきや、何故か出発直前の新幹線チケットを買っていて即解散。
冷ややかな視線が集まる父。さらば。
突然、1人。
この光景を見て初めて『不死MANDALA』終結を感じた。
と、駅構内を歩いているとGOK SOUNDのスタッフさんと遭遇。
店の現状などを聞きつつ、クラウドファンディング第2弾の話など。
生き残っていきましょう。
というわけで大阪では初来訪のディスクユニオン。
エネルギー補充もなんだか懐かしい感覚。
物色しているとNightmareのパーカーを着た方と目が合う。
予想通り共通の知人の名前が次々と出てきて盛り上がった。
明日のライヴを伝えると、なんと来てくださるそうだ。
レコ屋で集客を伸ばすのが #STDRUMS 流。
スタッフさんとは解散して身体を難波方面へ動かす。
殺惡愚ヒデさんと談笑としているところへ合流。
#STDRUMS デザインでお馴染みの彫り師 “呼鳴手”。
そして今回ツアーするシンガーソングライター “まちゅこけ”。
おお、この感覚。
車に乗せていただき西成は三角公園へ。
「あ、モリちゃんだ」どうやら名物おじさんがいるらしい。
5月1日はメーデーで、このような看板がズラり。
見れば、彼は目をウルウルさせながら話していた。
彼自身の余命と、呼鳴手氏が主催する釜ヶ崎ソニックについてだ。
「来てくれてありがとう!ロックンロール!」
長く堅い握手を交わし別れた。
「モリちゃんいつもあれやんねん(笑)」
彼のこの先長くない人生は、暫く続いているようだった。
フェスティバルホールという夢から西成という超現実へ。
私はタイムワープの如く引き戻され、身体と現在の隙間を埋める作業に追われた。
不意のインパクトに、モリちゃんの話題はツアーの最後まで出ずっぱりとなる。
さて食事でもと道中のうどん屋さんへ。
見ると元?は焼肉店のようだ。出汁が美味しい牛肉のうどん。
ご自宅へ到着し、軽くブログでも作りながら談笑。
だが、全く頭が働かない。
会話も儘ならず、思い浮かぶのはモリちゃんのインパクトのみ。
お二人からも心配される始末。
流石に今日は使い物にならぬか…。
翔二郎の生配信を聴きながらゆったりと時間を過ごし、就寝。
私は2つの代表的悪夢を持っている。
前へ進みたいのに身体が言うことを聞かない夢。
そしてもう1つが弾き語りおじさんの夢だ。
狂気染みた石川浩司さんを思わせる人と、とある場所で鉢合わせる。
恐らく元のモデルは10年以上前に小田急線内で見たあの気狂いであろう。
トラウマとも呼べるソレから逃げるのだが、最終的に居場所が見つかり狂気の笑い声で目が覚める。
情報の処理が追いついていないことを身体が告げているみたいだ。
翔二郎の夢で目覚めたいもんだよ全く。
さて朝食をいただき、必要な荷物を持って街へ。
四ツ橋駅で降りてスタジオへ入る。
案の定【平沢進+会人(EJIN)】で放ったらかしになっていた我が楽曲たち。
身体を起こすのにちょうどいい。
ゆっくり過ごせたのも影響してか、手足の違和感もなくなった。
終えて外に出ると一気に雨模様。
逃げるように地下鉄の駅へ滑り込み、のんびりと緑橋駅へ。
我が第二の故郷、戦国大統領へ到着。
雨に濡れず会場入り出来るのは駅構内に構えるこの店ならでは。
早速サウンドチェック。
各種機材が新調されていて驚いた。
随分と掃除が行き届いているのは森田くんの功績である。
どんどんグレードアップしていくのが素晴らしい。
ざっくり終えてツカちゃんと街を歩く。
今日来るであろう数人の新規お客さんに対して喜んでくれている。
政府からの宣言が影響しているらしく、何処もお店は閉まっている。
開いていたとしてもテイクアウトのみ or アルコールの提供はナシ。
施策の無能さを今更このブログで書き連ねるのはデータ容量の無駄遣いだ。
北へ南へと散々歩いて元来た道を戻る。
最終的にハコから一番近いお店の開店を待てばよかったというオハナシ。
ようやく杯に辿り着くことができた。
ツカちゃんは相変わらず驚きのライヴ本数を毎月こなしている。
「ステージで鳴るものは別になんでもええねん」
戦国大統領の楽しみ方を最も理解している男の発言は真理を突いていた。
さて会場へ戻れば “爆弾CLUB” のライヴが始まっている。
衣装をバッチリ決めて出音はRAMONESを連想させる直球なロックンロール。
戦国大統領の始まりだ。
ドラムレス・スリーピースバンドの “TERROR CHORD”。
人影がない背景に映像を投影してメッセージを直接的に発信する。
吐き捨てるような演奏の中にキャッチーな言葉が入ってくるタイミングが面白い。
このとき辺り、からか。
なにか普段と違う感覚に包まれていた。
それは単に大阪でライヴを楽しんでいるからではない。
むしろ戦国大統領そのものの空気には慣れている筈だ。
違和感の正体は出演者としての心持ちであった。
通常自分のライヴが控えている場合、楽しむことへ100%を注ぐのは難しい。
だがしかし、フロアでの充足感が出演への期待感と対等にせめぎ合っている。
演奏へのプレッシャーが全くないのだ。
そんな気持ちで始まったのがスリーピースバンド “STIR UP SHIT”。
私がこのバンドへ強烈な魅力を感じたのはステージの佇まいからである。
3人ともバラバラな服装。
日々の生活に寄り添ったシンガロング系のパンクロック。
ストリート極まりない演奏を見ていると、ふと脳内にフラッシュバックが生じた。
———-
ステージでは素晴らしい演奏が繰り広げられている。
疑いの余地ない。
まるで街から無作為に摘んでこの場所に集められたような無記名性を持つ3人。
偶然それぞれ楽器が演奏できて曲を知っているから成り立っているような。
オーディエンスはステージ上のロックスターへ熱い視線を注ぐ。
その最前列ではツカちゃんが手を挙げ続けている。
彼はいま現在お客さんで、数時間後には出演者となっている。
ライヴを終えれば英雄たちはバーカウンターへ『紛れ込む』。
オーラを包み隠し、フロア側にいるオーディエンスとしての顔を取り戻す。
会場にいる誰もが今夜を作る一端を担っている。
「ステージで鳴るものは別になんでもええねん」
面白いものは人気に左右されることなく、日常に満ち溢れている。
緑橋駅構内にある音の遊園地は日々ロックスターを生み出しているのだ。
個々の判別をロードローラーで平坦に潰し情報を発信し続けているコマーシャル。
露出回数が比例して数値に現れ、人々は数値を基準に興味の食指を伸ばす。
有名とは『有名』なだけで、品質の保証や面白さの根拠は何処にもない。
自然と保証になってしまうのは、自分の選択へ共感の理由を求める表れだ。
メディアがゴシップやスキャンダルばかりを流すのもよくわかる。
自らを無名とするのは数字を利用して人々を統率しないことへの意思表示。
同調せず、個人の考えで決めること。尊重し合うこと。
多数派の幻影は漂白され、新たなるタイムラインが生まれる。
4月28日、29日、5月1日。
対価は違えど同一価値の素晴らしいライヴイベントが行われている。
大阪フェスティバルホールと、戦国大統領は繋がっていたのだ。
———-
気付いた瞬間、込み上げてくるものを止めることができなかった。
それは長くに渡ったプロジェクト完遂への安堵も混じっていたのかもしれない。
地盤が脆くなりステージ裏へ。
こんなにも楽しい空間のステージへ、今から立つ側に回れる喜び。
解決不可能と噂された難事件の突破口となる鍵を閃いたような多幸感。
加えて解放感、純粋なオーディエンスとしての感情も大渋滞。
近所のスーパーで買っておいたお寿司が安定剤の役割を担う。
オーディエンスである自分に演者の気持ちを注入していく。
噛み締めながらも、より一層落ち着こうと思った次第。
会場は違えど肝は同じ椅子に座っている。
するとステージ側がなにやらバタバタと騒がしい。
一目散にツカちゃんが入って来て、自分のギターをステージへ持って向かった。
引き換えとして戦場の最前線で使われていた6弦状のライフルを持ち去る。
切れた弦を颯爽と取り替え、次の曲間で返す様はF1のピットインさながら。
ライヴの進行だけを止めないように、素早い判断で会場を回す。
彼は出演者であり、お客であり、なんとステージスタッフでもあった。
功績を称えるように熱量は下がることなく、駆け抜けるような30分を終えた。
私がやれたことといえば、出演前の演者から邪魔な存在に成り代わった程度である。
楽曲そのものではなく、繋ぎ目のことばかりを考えている。
どう上手く演奏するかではなく、どうやって面白い時間にするか。
叩きながら思い付いた進行方向で自然と曲が繋がっていった。
しかしインスピレーションが止めどなく生まれてくるのは何故だろう。
ライヴ中盤、ふと浮かんだ疑問は目前にあった。
…照明に導かれている…!?
次の展開を共有してときに緩急・ときにサプライズを提供していく。
サウンドエンジニアであり照明も担当するオニさんの手により私は転がされていた。
こんなやり方があったのか!!
自分で演奏しながら自分で驚いているステージ。
ありがたいことにダブルアンコール。
こうして今日、これまで考えていたライヴ進行が僅か40分で全て纏まった。
Ear Infectionもmind the gapも、演奏中に思い付いて初めてやったことばかり。
これもステージを彩る “ステルス・エフェクト” の賜物である。
荒々しい演奏とスティックを落としまくる両手を代償として支払った。
トリは “4-1″。
オーディエンス・機材テックとして既にMVPのツカちゃんがステージへ。
全編ストレートなハードコアパンクにほんわか系のMC。
ツカちゃんは全ギターソロをアドリブにして楽しんでいるらしい。
自由だ。
音楽が好きかを自問し続け、ライヴが好きだと確信した夜。
日常としてライヴを続けることそのものがメッセージなのである。
終演後それぞれ喜びを分かちあう。
ユニオンで遭遇したリュウヘイさんも無事に来てくれた。
ツカちゃんとも久し振りの再会だったらしく、お声掛けしてよかった。
小野塚さんも随分な再会。バンド界に戻って来てくれてよかった。
自分の終電も近付いてきた。
「もうちょっと飲みましょうよ」と森田くん。
なんとタクシー代を渡してくれた。マジか。
では本腰を入れていくしか無さそうだな。
結果、別会場でライヴををやっていた店長コウくんとも再会。
あっという間に時は流れて深夜帯に解散。
お言葉に甘えてタクシーにて呼鳴手邸へ帰還。
ライヴやって、音楽を楽しんで、好きに飲んで話して、タクシーで帰る。
完璧なリッチフォーエバーがそこにはあった。
カップ麺を食べて就寝。明日の朝は早い。
それでは、続きはwebで。チーン。
渋谷RUBY ROOM
RICH BUDDIES vol.6
#STDRUMS
Violent Chemical
ADV- 1500円 (+1D) / DOOR -2000円 (+1D)
*開演時間未定(予定19:00)
▼予約▼
https://www.rerure.com/blog2/ticket